こっちゃんのエッセイ

- 2007年4月のエッセイ -
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2007年4月26日(木)

[エッセイ#73]ミケとにぼし

今日はお客様がいらっしゃいます。
さあ大変、みんなで大掃除です。
お部屋の中も廊下も、お玄関も、そうそうお庭もです。
「こっちゃん、絶対散らかしたら駄目よ」
おねえさんの命令です。
「こっちゃん、そのお座布団ちょっと持って来て」
またおねえさんの命令です。
「こっちゃん、花瓶の水とりかえて」
またまたおねえさんの声。
もうこっちゃんは忙しくてたまりません。
第一花瓶なんて重くて持てませんもの。
その上お水をとり替えるなんて、無茶です。
こっちゃんは困りました。
だけど、おねえさんの命令には従わなければなりません。
何故ならいつも遊んでもらっているからです。
こっちゃんは考えました。
「そうだ、ミケに手伝ってもらおう」って。
そっとお外に出ました。お外は雨が少し降っていました。
長靴を履いてポケットに煮干しの頭を入れて裏口からそっと呼びました。
「ミケ、ミケ、ごちそうですよ」
縁側に寝ていたミケは、こっちゃんの声を聞いて大きなあくびをして、伸びをして、尻尾をぴんと立てて、のそのそと歩いてきました。もうおばあさんだから早く歩けないのです。
「ミケ、これたべて」
こっちゃんは煮干の頭を手に乗せて「どうぞ」って言ったのです。ミケは鼻をクンクンさせてプイと横を向きました。もう一度「どうぞ」って口の所に持って行ったら、反対の方にプイと向いてしまったのです。
「ミケ、これ大好きだったでしょ。たべなさい」
こっちゃんは大きな声を出しました。いっしょうけんめいに、食べさせようとしているのです。ミケは逃げるかまえです。尻尾をつかんでつかまえてます。
「こら、ミケ、だめ」
あまり騒いでいるのでおかあさんが出てきました。
「あのね、おかあさん、ミケがね、煮干食べないの」
「まあ、お腹すいてないんじゃないの」
おかあさんはミケの頭をなでてやってます。
「ごめんね、食べたくなかったんでしょ。こっちゃんがいじめたのね」
こっちゃんはふくれました。だってあたし、いじめたんじゃなくて煮干やろうとしただけだものって思ったのです。
「あれ、こっちゃん、こんな所に逃げて、花瓶どうしたの」
おねえさんです。探しに来たのです。
「あのね、ミケがね、煮干食べないの」
「ああ、それ知ってる。あたしもね、昨日、やっても食べなかったの。どうしてかしら」
お掃除そっちのけで3人共ミケの所に座り込んでいます。頭もお腹も足も耳もみんな調べました。どこも悪くないようです。
「ニャー」って機嫌の良い声を出して甘えてます。
「ねえ、このごろ前の学生さんの所に行ってない ? このミケ」とおかあさん。
「ああ、そうだ。昨日もあそこのベランダで寝てた」とおねえさん。
それでわかりました。ミケはキャットフードをもらって食べてたのです。きっと煮干よりおいしい味を覚えたのでしょう。昨年なんか裏の小屋で3匹もネズミを捕まえていたのに。おねえさんが捌いた魚の頭だって上手に食べていたのに。
「おねえちゃん、キャットフードっておいしいの ? ごちそうなの、煮干より ?」
こっちゃんの手には煮干の頭がくしゃくしゃになってました。
「こっちゃん、泣かないの。ミケはこっちゃんのこと嫌いになんかならないから」
お手々を洗って一休みです。おやつです。
おまんじゅうが蒸けました。

2007年4月17日(火)

[エッセイ#72]ヒヤシンス

こっちゃんの花壇に紫色のヒヤシンスが咲きました。
4本もです。
「おねえちゃん、咲いたよ。紫色のがね。ヒヤシンスがね」
こっちゃんの「咲いたよ」がまた始まりました。
毎日毎日朝早くからお庭中を見回っているのですもの、見つけるのはお手のものです。
昨日は黄色いチューリップが一本、その前の日は白いパンジーが二輪、その又前の日は赤いなでしこが三つ、その又前の前の日は物干竿の中に蛙が一匹、こっちゃんのお庭は日増しに賑やかになっていきます。
「おかあさん、こっちゃんがね、ヒヤシンスが咲いたって。よかったね」
「そう。よかったわ、あんな球根、駄目だと思っていたのにね」
この球根は去年の秋、おかあさんとおねえさんとこっちゃんの3人で、お花屋さんに行った時、お花屋さんのおばちゃんにもらったのです。売れ残ってしまい少し傷んだからお嬢ちゃんにあげましょう、と言って紙に包んでくれたのです。こっちゃんは今までヒヤシンスを見たことありません。第一「ヒヤシンス」という名前も知らなかったのです。球根は花壇の真ん中に丁寧に埋めました。そうしておねえさんに名札をたててもらいました。それから冬になって春が来た時芽が出てきたのです。
「ヒヤシンスさん、早く大きくなりなさい」
こっちゃんは毎日声を掛けました。初めは上手に言えなかった「ヒヤシンス」という言葉もこの頃は上手に言えるようになりました。
「おかあさん、花は咲いても、まばらじゃないかしら」
「そうね、球根が傷んでいたからね。どれどれ見にいってあげましょう」

二人は下駄を履いてお庭に下りました。
いい天気です。でもちょっと黄砂で空が曇っています。中国大陸からやって来たのでしょう。この黄砂の中には体に悪い化学物質がたくさん含まれているとか… 日本の空の上に屋根を被せることも出来ないし、みんなが外に出ないようにするしかないのでしょうか。こっちゃんなんかどうしたらいいでしょう。朝起きたらすぐお外、ご飯を食べてもすぐお外、おやつを食べてもまたお外、お昼寝すんだらまたまたお外、雨が降っても傘さしてお外、雪が降っても長靴履いてお外、こんなこっちゃんに黄砂が降るからお家にいなさいなんて言えますか。そうしたら言うに決まってます。
「おかあさん、蛙さんだってお外だよ」って。
お隣の国が発展するのはうれしいことです。けれどかつて日本が多くの公害問題を抱え、いまだ解決されていないことを教訓にして、少しでも環境問題に留意してもらえないものでしょうか。
この黄砂が終わると光化学スモッグです。おかあさんはいつも空を見て心配しています。こっちゃんにどんなお帽子を作って被せたらよいのでしょう。少子化問題どころではありません。この今生きている子供達を元気に大人になるまで育て上げる方が先決です。危険な遊具より原っぱがいいのです。森がいいのです。大人達が頭をひねって考えて作った遊園地は自然じゃないのです。子供も鳥や草や花や木と同じ線上に並ぶ自然の一部なのです。大人が山に憧れ、海に乗り出すのと、子供が草原で遊ぶことはどこが違っているでしょう。ぺんぺん草が生え、よもぎが生い茂っている、そして大きな木があって、子供達がよじ登っている。かつて日本にはそんな所がたくさんあったのです。お庭はガーデニングじゃなくてもいい、草茫々でもいいかな、とも思うのです。
「おかあさん、はやく来て」
こっちゃんの声です。
「ハイハイ」
二人は駆け出しました。麦の穂の間を風が吹き抜けます。

2007年4月11日(水)

[エッセイ#71]なんでもケーキ

「おかあさん、ちょっとあの歌聞いて」
おねえさんがお布団を干しながらおかあさんに話しかけています。
今日は久しぶりにおだやかないい天気です。
おかあさんは家族中の布団を運んでいます。
冬中使っていた毛布も、大きな掛布団もです。
「なあに、誰が歌っているの ?」
「ほら、耳をすまして。ね、聞こえるでしょ」
ほんとうに裏庭の方から聞こえてきます。
チューリップの歌がです。
こっちゃんの声です。
今年はこっちゃんの花壇に赤いチューリップがたくさん咲きました。
赤白黄色じゃなくて、全部赤です。
去年の秋、お花屋さんで球根を買う時、どうしても赤いのと言ってがんばったのです。
こっちゃんの頭の中にはチューリップは赤いとインプットされているのでしょう。
「あら、こっちゃんはあの歌いつ覚えたのかしら」
おかあさんは不思議そうに言いました。
「それはね、あたしが昨日、教えたのよ。おかあさんがお使いに行ってる時、二人でお留守番していたでしょ。その時あんまり遊ぼう、遊ぼうって言うから、ピアノでチューリップの歌を弾いてあげたの。そしたらね、すぐ覚えたんだけど… 赤白黄色のとこは難しいわ。何かむにゃむにゃ歌ってるでしょ」
なるほど「咲いた咲いたチューリップの花が」ばかり繰り返しています。でも大得意で花壇の周りを歩いています。ミケもクロも一緒について歩いています。

やっとお布団干しが終わりました。
「ねえ、おかあさん、今日のおやつ何にしましょうか ?」
おかあさんは大忙しです。やっと朝御飯の片付けが終わり、お洗濯をしてお布団を干して、もうおやつの時間です。
「そうね、何にもない時は簡単に作っちゃいましょう。さあ材料を集めてちょうだい」
おねえさんは冷蔵庫の中からりんごを1つ出しました。それからレモンも出しました。このレモンは海辺の町のミカン屋さんが、大切に育てて作ったレモンです。勿論、薬なんかかけていません。だから虫が這った跡もついてますし、風で葉がすれた痕跡もあります。おかあさんは、さつまいもを出しました。
「まだ何かあるかしら…」
「そうだ、おかあさん、お豆の煮たの残っていたわ」
テーブルの上には大豆の水煮まで出てきました。ついでに胡麻も牛乳もです。そこへこっちゃんが帰ってきました。手には卵を持っています。
「おかあさん、産んだよ」
「ああ、ちょうどいいわ。それもちょうだい」
おねえさんは、こっちゃんの手から卵を受け取り、テーブルに並べました。
こっちゃんはびっくりです。あんまりお歌を歌ってのどが渇いて、歩き回ってお腹が空いたので帰ってきたのに、まだ何も出来ていません。ただ並んでいるだけ。
「さあ始めますよ」
戦闘開始です。みんなお手々をしっかり洗いました。頭には三角巾を被りました。勿論エプロンも着けました。こっちゃんもです。
おねえさんはリンゴをむいて八つ切りです。それをこっちゃんがイチョウに切ります。まだそれほど上手じゃないので厚くなってます。さつまいもも、さいの目に切りました。レモンは皮をすって搾りました。その間おかあさんは卵とお砂糖を混ぜ、牛乳に重曹を溶かし粉をふるいにかけて用意は出来ました。
「さあ、切ったのを入れて」
大きなボールに全部入れました。こっちゃんはうれしくてたまりません。いつも作っている鶏さんのケーキと同じだからです。鶏さんのケーキには何でも入れます。大根の葉っぱも、煮干の頭も、草も麦の粒もです。
「おねえちゃん、オーブンは150°よ」
「こっちゃん、スプーンでこの種を天板に並べてね」
おかあさんの命令は絶対です。
こっちゃんはまだ小さいので調理台には胸から上しか出ません。それで、ちゃんと、おねえさんと同じ高さになるように台があるのです。その台に乗って天板に種を並べるのですが、あまりきれいにはなりません。こっちの種はリンゴが飛び出したり、あっちの種はおいもが顔を出しています。大きさもいろいろです。
「さあ、オーブンが温まったから入れるわよ」
こっちゃんはドキドキしながらオーブンを覗いています。こんなにも何でも入っているお菓子なんて、初めてです。それにレモンを搾った時、種も1つ入ってしまったのです。
それから10分、いい香りが漂ってきました。次に190°にして5分。出来上がりです。
テーブルの上には「何でもケーキ」が並びました。レモンの匂いもリンゴの匂いもします。
「おねえちゃん、おいしいね」
「うん」
二人とも大満足です。こっちゃんの顔にはまだ粉がついてます。

2007年4月4日(水)

[エッセイ#70]おとうさんとたんけん

春休みです。
おとうさんの学校もお休みです。
久しぶりにお家にいます。
こっちゃんは朝から三角巾を被って、長靴を履いて、篭を持って出たり入ったり。
「ねえ、おとうさん、はやく、まだ ?」
「ねえ、ミケ、おとうさん遅いね」
そうです。
こっちゃんは今日こそおとうさんに、お庭も畑も野原も、こっちゃんの小さなお池も、ミケも、クロも、鶏も、カラスも、あおさぎさんも、すずめも、ひよどりも、くもさんも、みんな見せてあげようと思っているのです。
「どれどれ、今日はこっちゃんに、いい物見せてもらうかな」
こっちゃんのおとうさんは、自分の家のお庭にどんな木があって、畑にどんな野菜があって花壇にどんなお花が咲いているか知りません。蛙がケロケロ鳴き始めたことも知らないのです。
「おとうさん、これ知ってる ?」
「へえ〜 これなあに ?」
「麦よ。あたしがね、去年の秋にたくさん蒔いたの。すごいでしょ」
畑には麦が50冂の背丈に伸びています。そしてもう穂がついています。
「こっちゃん、この麦の中にあるのはなあに ?」
「おとうさん知らないの ? キャベツよ。ひよどりさんが大好きなの」
「キャベツって麦の中に作るものなの ?」
「そんなこと知らないよ。あたしね、麦粒も、キャベツの種も、みんなポケットから出してね、パラパラパラって…」
「ふうん、蒔いたのかあ。それにしても変な畑だなあ。おとうさんは麦畑っていったら、一面麦が出て、麦踏みをして、そういうのかと思ってたけど…」
「でもね、おとうさん、これも踏んだよ。クロがね、この上に寝ころがってね」
「ふうん、こうやっても大きくなるなんだなあ。キャベツも結構育ってるじゃない」

こっちゃんは大得意です。
「おとうさん、こっちはね、エンドウ豆よ。ほら、もう白い花が咲いてるでしょ」
「なるほど。ここの後にも麦があるじゃないの」
「そうよ、豆さんと麦さんも仲良しなの。おとうさん、大根と何が仲良しか知ってる ?」「そんなの知らないよ」
「それじゃ、にんじんと仲良しなのは ?」
おとうさんは大困りです。
にんじんの中から、ニンニクの青い葉っぱが覗いています。ラディッシュの隣にはラッキョがあります。大根の中には、ハコベがいっぱい。みんなよく育っています。
「あっ、おとうさん、そこ踏んじゃ駄目」
歩いている道にもクローバーと匂いスミレです。
「こっちゃん、こんなに蒔いたら、どこをどうやって歩くの ?」
おとうさんは聞きました。
「こうやってね、ピョーンと跳ぶの。クロだってミケだって上手に跳ぶよ。ほらね。おとうさん、柿の木の上の鳥、キジ鳩よ。この間おねえちゃんに教えてもらったの」
おとうさんとこっちゃんの探検はまだ続きます。庭の白南天の木の根元の、白い万両の実、竜の髭のルリ色の実、みんなこっちゃんの宝物です。
「おとうさんね、一番大事な物はね、小さな女郎蜘蛛の巣とね、キャベツの中の麦の中で寝ているモンシロチョウなの。それは夕方じゃなくちゃ見えないよ。又夕方来ようね」
おやおやとんだ1日になりそうです。もうお腹が空いてきました。おやつは何でしょう。台所からおねえさんとおかあさんの声がします。コーヒーの匂いが漂ってきます。クッキーの焼ける香ばしい匂いもです。